箱根駅伝で優勝すると志願者は増える?入試改革との関係をデータで検証
毎年1月2日・3日に開催される箱根駅伝。お正月の風物詩として知られるこの大会では、各大学の選手たちが母校の名誉を懸けてたすきをつなぎます。
青山学院大学、駒澤大学、東洋大学など、箱根駅伝で活躍する大学の名前をテレビで何度も耳にしたことがある人は多いでしょう。
そこで気になるのが、「箱根駅伝で優勝すると、その大学の志願者数は増えるのか?」という疑問です。
全国的なテレビ中継で大学名が繰り返し紹介されれば、知名度が高まり、受験生からの人気も上昇するように思えます。
しかし、実際のデータを調べてみると、意外な事実が見えてきました。
箱根駅伝で優勝しても、志願者数が減少している大学があるのです。
さらに、志願者数の大きな増減には、大学の新学部設置や入試制度の変更が関係しているケースもあります。
今回は、学術研究や大学公式資料を基に、箱根駅伝と志願者数の関係を検証します。
箱根駅伝で優勝すると志願者数は増えるのか?
まず、過去の優勝校のデータを確認しましょう。
2017年に日本広報学会の学術誌『広報研究』第21号に掲載された、榊原康貴氏の論文『箱根駅伝優勝による大学評価への影響について―世間の誤解と広報視点からの課題―』では、歴代優勝校の志願者数の推移が分析されています。
この研究は1987〜2016年の30年間を対象とし、優勝した大学の志願者数が前年比でどう変化したのかを調べたものです。
ここでは、2005〜2016年の12大会を抜き出してみます。
2005〜2016年の優勝校と志願者数
| 年度 | 箱根駅伝優勝校 | 志願者数 | 前年比増減率 |
|---|---|---|---|
| 2005年 | 駒澤大学 | 29,733人 | +2.9% |
| 2006年 | 亜細亜大学 | 8,739人 | -12.5% |
| 2007年 | 順天堂大学 | 5,662人 | +0.9% |
| 2008年 | 駒澤大学 | 32,691人 | +11.8% |
| 2009年 | 東洋大学 | 69,157人 | +16.0% |
| 2010年 | 東洋大学 | 72,768人 | +5.2% |
| 2011年 | 早稲田大学 | 113,653人 | -1.6% |
| 2012年 | 東洋大学 | 64,829人 | -4.0% |
| 2013年 | 日本体育大学 | 3,547人 | +24.6% |
| 2014年 | 東洋大学 | 62,357人 | -12.5% |
| 2015年 | 青山学院大学 | 59,738人 | +6.9% |
| 2016年 | 青山学院大学 | 59,850人 | +0.2% |
出典:榊原康貴(2017)『箱根駅伝優勝による大学評価への影響について』表1、株式会社大学通信提供データを基に作成。
この12大会を集計すると、次のようになりました。
- 志願者数が増加した年:8回
- 志願者数が減少した年:4回
- 前年比増減率の単純平均:約+3.2%
確かに、優勝校の志願者数が増えたケースの方が多くなっています。
しかし、注目すべきは12回のうち4回は、優勝したにもかかわらず志願者数が減少しているという事実です。
2014年の東洋大学は、箱根駅伝で優勝しながら志願者数が前年比12.5%減少しました。
2011年の早稲田大学も、優勝した年の志願者数は前年比1.6%減少しています。
つまり、箱根駅伝での優勝が、必ずしも志願者数の増加につながるわけではありません。
なお、これは優勝した大学だけを集めた集計です。優勝しなかった大学との厳密な比較や、駅伝順位と志願者数の相関係数を示すものではありません。
東洋大学は初優勝で志願者数が16%増加!しかし、その背景には?

2009年、東洋大学は箱根駅伝で初の総合優勝を果たしました。
当時注目されたのが、山上りの5区で活躍した柏原竜二選手です。
その年、東洋大学の志願者数は大きく増加しています。
| 年度 | 志願者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2008年 | 59,638人 | — |
| 2009年 | 69,157人 | +16.0% |
| 2010年 | 72,768人 | +5.2% |
| 2011年 | 67,538人 | -7.2% |
| 2012年 | 64,829人 | -4.0% |
出典:榊原康貴(2017)表3。研究対象の集計による数値。
2009年の初優勝と同じ年度に、志願者数が約9,500人増加したのです。
これだけ見ると、箱根駅伝の優勝効果が非常に大きかったように思えます。
しかし、同じ年に東洋大学ではキャンパス移転や新学部設置などの取り組みも行われていました。
さらに、2012年にも箱根駅伝で優勝しましたが、志願者数は前年比4.0%減少しています。
2014年の優勝時も、前年比12.5%の減少でした。
同じ大学が優勝していても、志願者数が増える年と減る年がある。
この事実から、箱根駅伝の成績以外にも、志願者数を左右する要因が存在すると考えられます。
青山学院大学は箱根駅伝の常勝校!それでも志願者数が約30%減少した年がある
次に注目したいのが青山学院大学です。
青山学院大学は2015年に箱根駅伝で初優勝を果たし、2016年、2017年、2018年と4連覇を達成。その後も優勝を重ね、2026年には3年連続9度目の総合優勝を果たしました。
箱根駅伝を通じて大学名が全国に広く知られるようになった代表的な大学の一つです。
ところが、そんな青山学院大学でも、志願者数が大幅に減少した年度がありました。
2021年度、青山学院大学の志願者数が急減
学校法人青山学院の公式事業報告書によると、大学全体の志願者数は次のように推移しています。
| 年度 | 総志願者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2018年度 | 65,625人 | — |
| 2019年度 | 63,609人 | -3.1% |
| 2020年度 | 61,085人 | -4.0% |
| 2021年度 | 42,914人 | -29.7% |
| 2022年度 | 50,674人 | +18.1% |
出典:学校法人青山学院『2021年度事業報告書』。総志願者数には一般選抜以外の選抜区分も含まれます。
2020年度から2021年度にかけて、志願者数は18,171人減少しました。
減少率は約29.7%です。
ここで重要なのが、2021年度に行われた入試改革です。
青山学院大学では大学入学共通テストの導入に合わせて、学部別の入学者選抜制度を大きく変更しました。
大学側も公式事業報告書の中で、2021年度の志願者数減少について、次のような要因を挙げています。
- 新型コロナウイルス感染症の影響
- 大学入学共通テストの導入
- 大学独自の入学者選抜改革
2021年の箱根駅伝では青山学院大学は総合4位でした。
ただし、駅伝の順位だけで約30%もの志願者減少を説明することは困難です。
大学側自身が、入試制度の変更などを志願者数減少の背景として説明しているからです。
そして2022年度には、志願者数が約18%回復しました。
これは、入試制度が変わった初年度と、その翌年度で受験生の出願行動が大きく変化する可能性を示す事例といえるでしょう。
東洋大学は新しい入試方式で約2万人の志願者を獲得
大学の入試改革が志願動向に関係する事例として、もう一つ注目したいのが東洋大学です。
2025年度、東洋大学は新たに「学校推薦入試 基礎学力テスト型」を導入しました。
従来の学校推薦型選抜とは異なり、学力試験を活用し、他大学との併願も可能にした新しい方式です。
その結果、初年度の志願者数は次のようになりました。
| 項目 | 実績 |
|---|---|
| 募集人員 | 578人 |
| 志願者数 | 19,610人 |
| 合格者数 | 4,194人 |
| 入学者数 | 906人 |
出典:リクルート進学総研『入試は社会へのメッセージ[15]学力評価・併願可能型年内入試のインパクト/東洋大学』(2025年10月10日)。
新しく導入した一つの選抜方式だけで、約2万人もの志願者を集めたことになります。
ただし、この19,610人は学校推薦型選抜の志願者数です。一般選抜志願者数にそのまま加算して比較することはできません。
また、2025年度の東洋大学の一般選抜志願者数は113,762人で、前年から10,852人増加したと大学通信が報じています。
一般選抜の増加が新方式の導入によって生じたと断定することはできませんが、大学の入試制度そのものが大きな出願機会を生み出せることは明らかです。
箱根駅伝での露出とは別に、大学の募集戦略が志願者数に強く関わっていることが分かります。
学術研究では箱根駅伝の宣伝効果をどう評価している?
ここまでのデータを見ると、駅伝と志願者数の関係は単純ではありません。
しかし、だからといって「箱根駅伝には大学の宣伝効果がない」と結論づけるのも早計です。
実は、箱根駅伝への出場には一定の宣伝効果があることを示した学術研究も存在します。
2019年の研究では、箱根駅伝への出場に一定の効果
山村英司氏が2019年に国際学術誌『Pacific Economic Review』で発表した研究では、2001〜2015年のデータを使い、箱根駅伝への出場が大学への出願行動に与える影響を分析しています。
その結果、当該年度に箱根駅伝へ出場した大学では、非出場の場合と比較して、学部の募集人員に対する志願者数の比率が0.7ポイント高いという推計結果が示されました。
一方、前年度の出場による効果は確認されませんでした。
さらに、入試難易度が高い学部や東京都内にある学部で、その効果が大きい傾向も報告されています。
この研究からは、箱根駅伝への出場が、受験生の出願行動に一定の影響を与える可能性がうかがえます。
ただし、これは「出場すれば志願者数が0.7%増える」という意味ではありません。募集人員に対する志願者数の比率についての推計です。
一方、優勝による志願者増加には疑問も
2017年の榊原康貴氏の研究では、1987〜2016年の歴代優勝校を調べた結果、優勝が志願者数の大幅増加につながるという明確な関係は確認しにくいと結論づけています。
また、同研究では新学部・学科の設置、定員増、キャンパス移転、入試方式の変更などが志願者数増減の重要な要因として挙げられています。
つまり、二つの研究を合わせて考えると、興味深い見方ができます。
「箱根駅伝に出場することには宣伝効果があり得る。しかし、優勝したからといって志願者数が必ず増えるわけではない」
大学スポーツによる知名度向上と、実際の出願件数の増加は、分けて考える必要がありそうです。
そもそも志願者数が増えると大学人気が高まったことになる?

ここで、大学入試の志願者数そのものについて考えてみましょう。
私立大学で発表される志願者数は、一般に複数の入試方式・学部への出願を合計した延べ人数です。
例えば、一人の受験生が同じ大学の3学部に出願した場合、集計方法によっては3件の志願としてカウントされます。
共通テスト利用入試や全学部統一入試などの選択肢が増えれば、一人の受験生が同じ大学へ複数回出願することも可能になります。
つまり、志願者数が増えたからといって、その大学を志望する受験生の実人数が同じ割合で増えたとは限りません。
志願者数を左右する5つの要因
| 要因 | 志願者数に与え得る影響 |
|---|---|
| 新学部・新学科の設置 | 新しい学問領域を希望する受験生を集める |
| 入試方式の変更 | 併願機会や受験しやすさが変わる |
| キャンパス移転 | 通学環境や大学の魅力が変わる |
| 募集人員の増減 | 合格可能性や出願行動に影響する |
| 駅伝・スポーツでの活躍 | 認知度やブランドイメージに影響する可能性がある |
駅伝の成績は、大学の知名度や印象に影響する可能性があります。
一方、入試改革は受験生の出願条件や受験機会そのものを変えます。
この違いは、大学の志願者数を分析するうえで非常に重要です。
箱根駅伝の本当の価値は「志願者増加」だけではない
それでは、箱根駅伝で優勝することに大学側のメリットはないのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。
箱根駅伝には、志願者数だけでは測れない価値があります。
全国ネットのテレビ中継では、選手の所属大学が繰り返し紹介されます。大学の名前やスクールカラーを、多くの人に知ってもらう機会になるでしょう。
また、大学の在学生や卒業生が母校を応援し、一体感を高める効果も考えられます。
大学にとって重要なのは、受験生からの人気だけではありません。
卒業生とのつながり、大学に対する誇り、社会的な認知度なども、長期的な大学ブランドを形成する要素です。
2016年の『広報会議』に掲載された大学広報担当者の対談でも、箱根駅伝による知名度向上と志願者数増加は別の問題であり、在学生・卒業生の一体感という価値が指摘されています。
箱根駅伝の価値を、志願者数の増減だけで判断するのは適切ではないでしょう。
結論|箱根駅伝で優勝するより、入試改革の方が志願者数に影響する?
今回の調査で分かったことを整理します。
第一に、箱根駅伝で優勝しても、必ずしも志願者数が増えるわけではありません。
2005〜2016年の優勝校12例では、8例で増加した一方、4例で減少していました。
第二に、青山学院大学の2021年度入試改革や東洋大学の新しい選抜方式の事例から、入試制度の変更が志願動向に大きく関係することが分かりました。
第三に、学術研究では、箱根駅伝への出場そのものが受験生の出願行動に一定の影響を与える可能性も示されています。
では、駅伝の成績と入試改革では、どちらの影響が大きいのでしょうか。
今回のデータだけでは、両者の影響の大きさを統計的に比較し、どちらが上かを断定することはできません。
しかし、次のような整理はできそうです。
- 箱根駅伝は、大学の知名度やブランドイメージを高めるきっかけになり得る。
- 入試改革や新学部設置は、受験生の出願機会や志願者数を直接的に変化させ得る。
- 志願者数の増減には複数の要因が絡むため、駅伝の成績だけで説明することは難しい。
そして、最も重要なのは、「志願者数の多さ=大学の教育力や入試難易度の高さ」ではないという点です。
大学を選ぶ際には、志願者数の増減だけではなく、学べる内容、入試難易度、就職実績、キャンパス環境なども総合的に確認する必要があります。
箱根駅伝で活躍する大学が気になったら、その大学の入試制度や学部構成がどのように変化しているのかも調べてみると、新しい発見があるかもしれません。

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Googleの優先ソースに追加私は、新卒から約20年大手大学受験予備校の職員として働いておりました。現役生や浪人生、国公立医学部を受験する生徒から私立文系を受験する生徒まで、数千名の生徒と向き合ってきました。受験校の相談や学習方法の相談、受験勉強の息抜きなどさまざまな相談、時には生徒から教えてもらうことも。今までの経験を少しでも受験生に役立つ情報をお届けできたらと思っています。
調査方法と参考資料
本記事では、2005〜2026年の箱根駅伝の優勝記録を確認し、主に2005〜2016年の優勝校について学術研究の志願者数を参照しました。また、青山学院大学と東洋大学の入試改革について、それぞれ公式資料および教育関連メディアの公表情報を使用しました。
なお、2005〜2026年の全出場大学について、統一基準の志願者数データをそろえた相関分析は実施していません。したがって、本記事は駅伝の成績と志願者数の因果関係を証明するものではありません。
参考資料
- 榊原康貴(2017)『箱根駅伝優勝による大学評価への影響について―世間の誤解と広報視点からの課題―』日本広報学会『広報研究』第21号、148〜164頁。
https://www.jsccs.jp/publishing/files/21th_10.pdf - Eiji Yamamura(2019)Do university sports function as advertising in the Japanese higher education market? An analysis of the Hakone Ekiden long-distance relay road race. Pacific Economic Review, 24(5), 642–658.
https://doi.org/10.1111/1468-0106.12316 - 学校法人青山学院『2021年度事業報告書』
https://cdn-aoyamagakuin.com/wp-content/uploads/2022/06/0622_2021_jigyouhoukoku.pdf - リクルート進学総研(2025)『入試は社会へのメッセージ[15]学力評価・併願可能型年内入試のインパクト/東洋大学』
https://souken.shingakunet.com/higher/2025/10/post-3511.html - 大学通信オンライン(2025)『東洋大が入試結果を公表―2026年度入試の方向性も』
https://univ-online.com/article/exam-column/31342/ - AdverTimes.(2016)『「箱根駅伝で志願者は増えましたか?」近畿大学×東洋大学広報対談』
https://www.advertimes.com/20160603/article226496/
※志願者数は出典ごとに集計対象となる選抜方式が異なる場合があります。特に学術研究に掲載された数値と大学公式の総志願者数は、同一の統計として直接比較していません。

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